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横浜地方裁判所 昭和54年(ヨ)305号 決定

申請人

佐藤実

申請人

日和田典之

申請人

持橋多聞

右申請人ら代理人弁護士

野村和造

(ほか三名)

被申請人

日本鋼管株式会社

右代表者代表取締役

槇田久生

右代理人弁護士

高島良一

(ほか三名)

補助参加人

日本鋼管造船重工労働組合

右代表者中央執行委員長

森田栄二

右代理人弁護士

大室征男

主文

一  申請人らが被申請人に対し労働契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。

二  被申請人は、昭和五四年五月以降本案判決確定に至るまで毎月二二日限り、申請人佐藤実に対し金一四万二三九一円、同日和田典之に対し金一二万〇三三七円、同持橋多聞に対し金一三万八二〇九円をそれぞれ仮に支払え。

三  訴訟費用は、参加によって生じた費用は補助参加人の負担とし、その余は被申請人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  申請の趣旨

1  主文一、二項同旨

2  訴訟費用は被申請人の負担とする。

二  申請の趣旨に対する答弁

1  申請人らの申請をいずれも却下する。

2  訴訟費用は申請人らの負担とする。

第二当事者の主張

一  申請の理由

1  申請人佐藤実(以下申請人佐藤という。)は昭和四六年九月、申請人日和田典之(以下申請人日和田という。)は昭和四九年六月、申請人持橋多聞(以下申請人持橋という。)は昭和四二年一二月、被申請人に雇用され、いずれも被申請人鶴見造船所においてその業務に従事していたものである。

2  被申請人は、昭和五四年三月二七日付で申請人らを解雇したとして、同日以降申請人らを従業員として取り扱わない。

3  被申請人の賃金支払方法は、前月の一日から末日までを一カ月とし当月の二二日支払との約であるところ、昭和五三年一二月から二月までの一カ月当りの平均賃金額は、申請人佐藤が一四万二三九一円、同日和田が一二万〇三三七円、同持橋が一三万八二〇九円である。

4  申請人らは、被申請人から支払われる賃金を唯一の生活の資とする労働者であって、もし本案判決確定に至るまでその支払を受けられないと回復し難い損害を蒙る恐れがある。

二  申請の理由に対する認否

申請の理由1、2、3は認め、4は争う。

三  被申請人及び補助参加人の主張

1  除名解雇

(一) 解雇の意思表示

被申請人の重工造船部門の従業員で組織されている労働組合である補助参加人と被申請人間の労働協約五条には「所を勤務地とする社員は、つぎの各号の一に該当する者を除き組合員とする。一主任部員およびこれに相当する職にある者 二特定の業務に従事する一部の部員 三その他会社と組合が除外を適当と認めた者」、六条には「会社は組合から除名された者を解雇する。ただし、会社が解雇につき重大な異議あるときは組合と協議する」と規定されているところ、補助参加人鶴見造船支部所属組合員であった申請人佐藤、同日和田及び浅野船渠支部所属組合員であった同持橋は、補助参加人から除名されたため、被申請人は、昭和五四年三月二七日、申請人らに対し解雇する旨の意思表示(以下本件解雇という。)をなした。

(二) 除名理由

(1) 昭和五四年二月当時は、深刻な造船不況の下において、被申請人から提案された厳しい合理化案をめぐって補助参加人が雇用確保を基本とし且つ約一万人の組合員の意向を踏まえて民主的且つ真剣な態度により労使協議に臨んでおり、組合員の団結及び連帯が最も必要な時期であったところ、申請人らは、組合規約所定の組合員としての権利を行使することなく、合理化についての労働協約の適用を不当に免れることを唯一の目的とするなど全く正当理由がないのに、申請人佐藤においては同月九日、申請人日和田及び同持橋においては同月二八日に各所属支部に到達した内容証明郵便により一方的に脱退の意思表示をなしてその旨ビラでも表明し、補助参加人の数度にわたる組合規約所定の脱退手続の履行及び脱退理由の明示要請を無視し、慰留には応待すら拒否し、果ては制裁委員会への出席要請をも拒絶するなど組合員としての義務も尽くさず、被申請人から解雇され補助参加人の組合員資格を喪失している者二名他一名と全日本造船機械労働組合日本鋼管鶴見造船分会(以下分会という。)を結成したと称して、民主的に決定された補助参加人の方針を誹謗中傷し、分会への加入を訴えるなどの分派活動をなし、主謀且つ積極的に補助参加人の組織を破壊し分裂させる行為をなしたものである。

(2) 補助参加人は、被申請人の重工造船部門における唯一の労働組合でユニオンショップ協定も締結しているため、組合規約には自由意思による明示的な脱退手続を規定していないが、組合規約八条但書には「1主任部員の職分にある者2特別社員、準社員、傭員、嘱託として採用された者 3最高議決機関が組合員にすることを不適当と認めた者」、二条には「組合員がつぎの各項に該当したときは、その資格を失う。1除名されたとき2従業員たる資格を喪失したとき3規約八条但書に該当したとき」、一二条には「この組合の組合員が前条の定めにより組合を脱退しようとするときは別に定める脱退届を提出し支部執行委員会の承認を受け、支部執行委員長を通じ中央執行委員会の承認を得なければならない」と規定されているから自由意思による脱退の場合も当然右規定が適用されるべきところ、そもそも脱退は、団結を弱体化させるものであり、労働組合における団結、統制機能、民主的組織運営の意義特にユニオンショップ協定を締結している場合にはその組織強制の趣旨からも無制約ではあり得ず、労働組合内部における多数決原理が形式的にも実質的にも機能しなくなった場合等の正当理由がある場合のみ許され、単なる意見の相違の場合はもちろん団結阻害の程度が高い別組合の結成ないし加入を目的とする場合はとうてい許されず団結権の侵害と評価せざるを得ないというべきであるから、労働組合は、脱退について理由を審議し慰留のための説得をなす権限を有し、組合員もこれに応ずる義務があり、その結果正当理由がない場合には脱退を拒否することができるものと解すべきであり、それゆえ申請人らの分会規約にも同旨の規定があることから申請人らも承認しているように脱退につき組合機関の承認を要する旨の前記組合規約一二条の規定は有効であり且つ合理的なものである。しかして、申請人らの脱退は、所定の脱退手続が未履行の点で無効であるばかりでなく、そもそも正当理由が不存在のうえ、脱退の時期、方法、態様に多数の組合員の利益に反したものであることを勘案すると団結権を侵害した違法のものであり、かような統制からの離脱表明と分会への加入呼びかけは、まさしく補助参加人の制裁規定四条一項「組合の組織を破壊し、又は分裂させる目的をもって行為したとき」、五条一項「本規程四条一項及び二項のいずれかに該当した者で首謀者は除名、共同謀議に参画するか又は積極的に行動した者は除名又は権利停止」に該当するものである。なお、仮に、脱退が有効であっても、脱退行為自体が組織を破壊し分裂させる目的をもっていた場合には、統制の対象となりうるというべきである。

(3) 補助参加人は、(1)、(2)記載のとおり申請人らについて除名事由があったため、組合規約及び制裁規定所定の手続に則り、制裁委員会の審理を経て、昭和五四年三月一〇日の臨時組合大会において満場一致で除名処分の決議をなし、同月二六日、右除名処分の確定により執行をなしたものである。

(三) 本件解雇の正当性

(1) 申請人らの分会結成と称する行為は、約一万人の従業員の内のわずか四名の、しかも何ら正当理由のない補助参加人からの脱退に基づく結合にすぎず、被申請人の重工造船部門における唯一の労働組合である補助参加人が締結したユニオンショップ協定の効力は、申請人らに及ぶというべきであり、かように解しなければ、労組法七条一号但書が事実上空文化し、統制権も著しく弱体化し、ユニオンショップ協定締結組合の団結権の保護も不十分となるうえ、少数組合員による無数の小集団が発生するなどして無用の競争を招き対使用者との交渉を弱める結果をもたらすなどその不当なことは明白である。

(2) 組合員の除名については、労働組合の自主的判断に委ねられ、使用者の介入する余地はなく、使用者は、労働組合から提供された資料を基礎としてその当否を判断する他はないから、これに基づき、除名が正当であると信じ且つそのように信ずるにつき合理的理由がある場合には、除名が無効であっても解雇は有効と解すべきところ、被申請人は、申請人らの脱退行為に関連した補助参加人からの申し入れ書、これに添付された申請人らあての内容証明郵便、制裁裁定書、ユニオンショップ協定の履行要求通知書等から、補助参加人の申請人らに対する除名処分及びその手続はいずれも合理的と判断したものであるから、本件解雇は除名処分の効力如何に拘らず有効というべきである。

2  脱退解雇

特定の事業所に複数組合が併存している場合とは異り、一つの労働組合しか存在しない場合においては同労働組合が締結しているユニオンショップ協定の効力は、脱退組合員が別組合に加入し、ないし別組合を結成した場合でも、あるいは少くとも右の場合に脱退につき正当理由がないときには、脱退組合員に及ぶものとすべきところ、申請人らは、被申請人の重工造船部門における唯一の労働組合でユニオンショップ協定を締結している補助参加人から何の正当理由がなく脱退し、結成したと称する分会も保護に値しない結合(ママ)であるからいずれにしてもユニオンショップ協定の効力は申請人らに及ぶものであるから、本件解雇は有効である。

四  申請人らの被申請人らの主張に対する認否及び反論

1  認否

1(一)並びに1(二)中申請人らが主張の脱退の意思表示をなしたこと及び主張の組合規約が主張のとおりであることは認めるが、その余はすべて争う。

2  反論

(一) 除名処分の不当性

(1) 申請人らは、除名処分前に適法に補助参加人を脱退しているものであるから、除名処分は法的に無意味無価値である。すなわち、補助参加人の組合規約一二条の脱退手続規定は、自由意思による脱退の場合は適用とならず、仮に適用されるとしても、機関の承認を要するとの点は公序良俗に違反して無効であり、また脱退届の提出との点は、そもそも脱退届自体が存在しないうえ、かような形式的手続の履践の有無は脱退の効力に影響がないとすべきところ、申請人らは、最も確実な内容証明郵便により脱退の意思表示をなしているから、右書面が到達した時点において脱退の効力が生じているもので、これに遅れる除名処分は何ら意味をなさないというべきである。

(2) 補助参加人の除名処分は要するに申請人らの脱退とこれに関連した慰留等の拒絶、補助参加人の方針の批判及び分会への加入の呼びかけを理由にしているものであるが、申請人らは、被申請人の合理化案に対し雇用と労働条件の確保を目的として独自の活動を展開すべく補助参加人を脱退し、日本労働組合総評議会全日本造船機械労働組合(以下全造船という。)に加入したうえ分会を結成したものであって、脱退及び団結の自由の趣旨からみて、申請人らの脱退が脱退権の濫用等の違法のものでなく、(1)のとおり適法に効力が生じているものであるから、脱退及びこれに対する慰留等の拒絶が除名理由に該当しないことは明白であり、また補助参加人の方針の批判は実態に即しているばかりでなく分会への加入の呼びかけと共に分会としての正当な組合活動であり、前同様除名理由たり得ないから、除名処分は除名理由を欠き無効のものというべきである。

(二) ユニオンショップ協定の効力

申請人らは、補助参加人を脱退し、全造船に加入したうえ分会を結成したものであるから、かような場合、そもそも脱退ないし除名処分の有効無効に拘らずユニオンショップ協定の効力は申請人らには及ばない。

(三) 本件解雇の無効

以上(一)、(二)のとおり、本件解雇は、解雇事由を欠くものであって無効である。

第三疎明関係(略)

理由

一  申請の理由1、2の事実及び被申請人が申請人らに対し本件解雇の意思表示をなしたことはいずれも当事者間に争いがない。

二  そこで本件解雇の効力につき判断する。

1  当事者間に争いのない事実に本件疎明資料を総合すると次の事実を一応認めることができる。

(一)  当事者等

被申請人は、従業員約三万五〇〇〇名を擁する鉄鋼重工造船メーカーであり、船舶の新造修繕等を行っている重工造船部門として横浜市、清水市、津市に、それぞれ鶴見造船所(昭和四四年浅野船渠と事業所統合、なお現在名称が製作所となっているが以下旧称で表示する。)、清水造船所、津造船所を有し、鶴見造船所は、本社従業員中の事業所駐在の者を含め約五〇〇〇名の従業員を擁している。

補助参加人は、昭和四四年に、全造船を組織的に脱退していた鶴見造船分会、浅野船渠分会、清水造船分会の三組合と津造船労働組合が昭和四七年に、組織統合されて結成されたもので、以来被申請人の本社従業員中の事業所駐在の者及び重工造船部門の従業員で組織される同部門における唯一の労働組合として活動してきたもので、本部、鶴見造船支部(昭和五四年一月現在で組合員数約三六〇〇名)、浅野船渠支部(同約九〇〇名)、清水造船支部(同約一七〇〇名)、津造船支部(同約三六〇〇名)とからなっており、上部団体として産業別労働組合である全国造船重機労働組合連合会に加入している。

申請人らは、昭和五四年一月当時、いずれも鶴見造船所でその業務に従事しており、申請人佐藤、同日和田は鶴見造船支部所属の、申請人持橋は浅野船渠支部所属の補助参加人の組合員であった。

全造船は、法人格を有する産業別労働組合で組合員約一万名を擁している。

(二)  被申請人の合理化策の実施と補助参加人の対応

造船業界は、昭和四八年のいわゆるオイルショックを契機として、未曽有の不況に見舞れ、種々の合理化策の実施を余儀なくされていたが、造船大手七社の一つである被申請人においても同様で、昭和四九年以降受注の拡大を図る一方経費削減に努めていたものの、情勢は悪化の一途を辿り、昭和五三年には、雇用調整と経費削減策として、同年四月に鉄鋼部門への一〇〇名の配転、特別社員(定年後五八才以降六〇才まで一年毎の再雇用者)の再雇用中止、新特別社員(定年五五才以降五八才までの一年間毎再雇用者)の再雇用制限、同年六月に休日振替、休別(ママ)休日制度、同年一二月に臨時休業制度の各措置を実施したものの、大巾な受注減により同年度は約一八〇億円の赤字が見込まれ、翌年度以降も同様の見通しであったことに加え、同年一一月に、政府から造船大手七社に対し設備能力の四〇%削減と翌年度の操業についてピーク時の三四%とする旨の操業規制勧告もなされており、これに応じた操業の達成すら困難な状況で約三二〇〇名の余剰人員の発生が不可避となっていたため、企業継続のため、雇用確保を主眼としながらも、人員削減を柱とする抜本的合理化策の実施のやむなきに至り、造船大手七社では最も遅い、同年一二月一四日、補助参加人に対し、「緊急人員対策ならびに労働諸条件の改訂について」と題して、〈1〉関連、下請会社への約三〇〇名の出向、派遣、応援、〈2〉鉄鋼部門への約四〇〇名の指名配転、〈3〉新特別社員制度の運用停止と現在員約一三〇名の全員解約、〈4〉〈1〉ないし〈3〉によって措置し得ない余剰人員一一一〇名について転業転進等優遇措置による退職者の募集、〈5〉旅費、出向制度、賃金等労働諸条件の改訂を主な内容とする提案を行った。

これに対し、補助参加人は、すでに同年九月の定期大会において、重要課題として予想される合理化につき、雇用確保を基本とし、労使の事前協議及び職場の理解を前提として対処し、具体的合理化案に対しては、提案時点で慎重に判断するとしながらも、右時点においては、出向、派遣、応援については受け入れ、希望退職は雇用確保の姿勢で対処し、解雇は認めないとの原則的態度を運動方針として採択していたことから、被申請人の前記提案につき、不満の意を表明した。そして、不況対策専門委員会において右提案に対する質問事項を検討したうえ、同月一九日、二一日の両日、被申請人との中央労使協議会において、経営問題を含め提案内容の詳細について多岐にわたって質問・交渉を行ったが、その中では、配転拒否については解雇も示唆されたばかりでなく、希望退職者の募集については個人面接を実施すると共に、未達の場合は賃金カットないし指名解雇の可能性もあることが明示されたため、こうした厳しい状況を踏まえて、同月二四日、中央執行委員会で、提案に対しては状況は理解するものの雇用確保及び労働条件維持の点から不満であり粘り強く交渉するとの基本的態度及び〈1〉出向、派遣、応援については促進、〈2〉配転については指名制を改善、〈3〉新特別社員制度については、その趣旨からも最も不利益が少いためやむを得ないものとして是認し、その代わり退職条件の引き上げを図ること、なお高齢者については別個に再就職のあっせんを認めること、〈4〉希望退職者募集については人員の縮少を図ること、〈5〉労働諸条件改訂については、企業内統一条件は撤回を求め、造船部門関係は期限付で認めるとの基本方針を決め、昭和五四年一月六日以降同月一二日まで、役員等も出席のうえ活発な職場討議を実施したうえ、同月一三日の臨時中央委員会で、右職場討議で集約された意見につき討論され、その中では補助参加人の対処の不の十分さの指摘もあったが、最終的には、全会一致で前記基本的態度と基本方針が決定された。

これを受けて、同月一六日の中央労使協議会で、補助参加人は、被申請人に対し、希望退職者数の人員縮少を先決として求め、この結着後他の提案や個別条件の交渉に移行する旨表明し、経営問題を含め以後同月一八日、二三日、二六日と四回に亘って中央労使協議会でいわゆる基本交渉がなされ、その中では、希望退職者につき、被申請人から、転進、転業を望む者、協調性に欠ける者、被申請人の施策に同調できない者、勤怠状況に問題のある者、配転、出向、派遣に応じられない者等一三項目に亘って被申請人が退職に応じて欲しいと考えるところのいわゆる期待像が示されたりしたが、希望退職者数については、同月二六日、補助参加人の要求が通り、八七〇名に縮減する回答がなされた。そこで、補助参加人は、同日の中央執行委員会で検討した結果、基本交渉は限界とし、希望退職者募集に関しては、人数は了解し、また強要しないことを条件に個人面接を認め、その際一三項目の期待像を活用することも理解することとし、今後は個別条件の修正改善を求める交渉に移行するが、その方針として〈1〉出向、派遣、応援については特定人への集中を排除し、〈2〉配転問題については指名につき妥当な方法を協議することを確認し、同年二月一〇日の中央委員会での決定を受け、同月一三日の中央労使協議会で右の趣旨を表明した。そして同月一五日、一九日、二一日、二三日、二七日と労使専門委員会で個別条件につき交渉をしたところ、補助参加人の修正要求をかなり取り入れた回答がなされたため、交渉限界と判断し、以上のような中央労使協議会及び労使専門委員会の交渉結果につき妥結集約することとし、職場討議を経たうえ、同年三月一〇日、臨時組合大会を開催し討議した結果、全会一致で可決されたため、被申請人との間で協定を締結した。これを受けて、同月一五日から、希望退職の募集が開始されたが、申請人らは、上司からの個人面接出頭命令を拒否したため懲戒処分を前提にした書面による厳重注意を受けるなどしたものの、全体では、他の造船大手企業とほぼ同水準の約二二六〇名の応募者があった。

(三)  申請人らの補助参加人の脱退と全造船への加入分会結成の経緯

申請人らは、(二)記載の被申請人の一連の合理化策の実施に対し、必ずしも職場討議においては、積極的に意見を表明したわけではないが、どたぐつと題するビラにおいては、昭和五三年一〇月以降、近隣の造船大手企業である住友重機械工業株式会社の合理化の実態とこれに対する労働組合の取り組みを紹介しながら、臨時休業制度はもちろんのこと、前記緊急人員対策と労働諸条件の改訂案に対して、労働者に犠牲を強いるものとして厳しい批判の眼を向け、新特別社員の解約に反対すると共に、個人面接を伴った希望退職募集は実質指名解雇であり、労働諸条件の改訂は大改悪であると指摘するなどして人員整理に反対し雇用を確保するよう呼びかけると共に、被申請人の労災に対する対応をも批判していた。そして同時に、補助参加人の合理化策及び労災への取り組みにも少なからず、不満を抱き、その対応を見守っていたが、補助参加人の基本方針では、希望退職者募集人員の縮減を求めながら、一方では新特別社員の解約を是認することが明らかになり、定期大会で表明された解雇は認めないとの方針に反するものと思料されたばかりでなく、昭和五四年一月中旬以降において、被申請人から希望退職募集について一三項目にのぼる期待像が明らかにされ、個人面接の実施をもあわせ検討すると、実質的指名解雇の性格が増々強まったと認められるのに、補助参加人は、これに理解を示したことから、被申請人の施策に必ずしも同調しない言動をなしていた申請人らは危機感を深め、同時に、補助参加人の方針は、もはや申請人らの雇用確保を絶対の至上命題とする主張とはあい入れないものと判断するに至った。しかして、まず申請人佐藤において、自らの疾病を労災と主張し労災。認定の申請をする一方被申請人の責任を追求していた村山敏、昭和四七年被申請人から解雇され裁判で係争中であり労災問題に関連した諸活動をなしている早川寛、同じく昭和四九年被申請人から解雇され裁判で係争中であり自らの疾病は労災によるものとして被申請人の責任を裁判で訴求中の小野隆(後二者は解雇後、補助参加人から組合員資格を喪失した者として取り扱われている)の労災問題等を通じて考えを同じくする者三名と共に、当時、造船業界において申請人らの主張に添う活動をなしていたと思料され、その運動方針に共鳴することの多かった全造船に加入して独自の活動を展開すべく決意するに至り、同年二月九日、全造船に加入すると共に、同組合規約二五条に則り、分会を結成し、組合員資格、権利義務、目的、機関統制、会計等について規定した分会規約を作成したうえ、同時に役員として、執行委員長に早川、副執行委員長に小野、書記長に村山、執行委員に申請人佐藤を選出した。

そして、同日午前八時頃には、申請人佐藤と村山が、鶴見造船所門前において、右四名が全造船に加入し分会を結成したこと及び補助参加人への合理化策への対応特に新特別社員の解約を認めたこと並びに村山、小野の労災問題への取り組みを批判し、一方解雇を絶対認めないことを方針とする分会結成の意義を強調する内容の各人の分会結成の動機と決意表明(補助参加人につき、申請人佐藤は、「会社と組合は一体となって組合員の首切りを認めました」、村山は「労働組合を名乗る資格がない」と表現)を記載したビラを配布し、午前九時すぎには、村山が電話で、鶴見造船支部に対し、四名が同支部を脱退する旨の意思表示をなすと共に、確実を期すため、補助参加人鶴見造船支部を脱退しますと記載した四名連名の内容証明郵便を発送し(同日午後二時三〇分すぎ鶴見造船支部に到着)、また被申請人に対しても、村山が電話で全造船加入と分会結成を通告し、さらに全造船に加入した旨記載した四名連名の内容証明郵便も発送した。同月一二日には、全造船の役員と早川ら分会三役が、被申請人に対し面談を求めたが、早川らの同席は拒否されたため、全造船の役員のみが面談し、分会結成の確認、分会結成による不利益取扱禁止、団交応諾、組合事務所の貸与等の諸要求をなしたが、被申請人からは追って返答する旨の返答がなされたのみであったため、同月一四日には、分会は、役員の氏名を記載した分会結成通知書を提出すると共に、全造船と連名の文書で、当面の合理化問題、労働協約、早川らの取扱を議題とする団交申し入れをなした。これに対し、被申請人は、後記のとおり補助参加人からの申し入れもあり、同月一五日付の内容証明郵便により、全造船に対してのみ、早川、小野は従業員資格を喪失し、申請人佐藤と村山は補助参加人鶴見造船支部の組合員であることを理由に団交を拒否する旨回答をなしたため、同月二一日、全造船と分会は連名で、神奈川県地方労働委員会に救済申立をなした。そして、同月二二日には、改めて、同月二〇日に村山に対してなされた休職処分を議題とする団交申し入れと組合活動、村山の配転、小野、早川の解雇を議題とする団交申し入れをなしたが、被申請人からは前回と同様の理由でいずれも拒否された。

同月二八日には、分会の呼びかけに応じ申請人日和田、同持橋も全造船及び分会に加入し、同日午前八時すぎ鶴見造船所門前と浅野船渠門前において、分会に加入したこと及び補助参加人を批判し解雇に反対し労働者の利益を擁護する旨の各人の加入の動機と決意表明(補助参加人について、申請人日和田は「会社べったり、首切りまで認めてしまう」、同持橋は「会社の弾圧を容認し敵対、御用組合」と表現)を記載したビラを配布し、同日午前八時三〇分すぎには、村山が、各所属支部に電話で同支部を脱退する旨の意思表示をなし、確実を期すため全造船及び分会に加入したので補助参加人各所属支部を脱退します旨記載した内容証明郵便を各人が各所属支部に発送(同日午前中にいずれも到達)し、被申請人に対しても、全造船及び分会に加入した旨記載した内容証明郵便を発送すると共に、全造船及び分会も連名で加入通知と解雇等不利益取扱禁止の申し入れを記載した内容証明郵便を発送した。

同年三月一五日、希望退職募集が開始されたが、分会は、団交をせずに個人面接を実施することに抗議し、団交申し入れをなしたが、拒絶され、その後申請人らが、上司の個人面接の出頭命令を拒否したところ、懲戒処分を前提にした書面による厳重注意がなされたため、かような個人面接を実施することに抗議すべく、同月二二日、組合大会を開催してスト権を確立して、同月二三日指名ストを実施した。また、同日、全造船と分会は連名で、労働協約締結を議題とする団交申し入れをなし、同月三〇日には、分会が、賃金改訂、労災に対する企業補償額の増額等を議題とする団交申し入れをなしたが、これらに対し、ようやく、同年四月四日になって、被申請人から、申請人佐藤と村山の解雇撤回に対してのみ団交に応じる旨の回答がなされたが、同年五月一七日には、神奈川県地方労働委員会が、全造船と分会につきいずれも労組法二条及び五条二項の規定に適合する旨の資格決定をなしたうえ、前記救済申立の一部を認容する救済命令を発した。

なお分会は、以上の活動の他に、同年二月一二日に、つるぞう分会ニュースと題する機関紙を創刊し、同号において、分会の活動内容を明らかにすると共に、補助参加人が了解した希望退職は、人殺しの首切り基準であるなどと批判し、また度重なる労災発生に抗議の意思を表明するなどしたが、同年三月二八日の一九号までの各号においても、補助参加人組合からの脱退の経緯とその適法性、分会の活動内容、役員名、組合員資格、加入方法、被申請人に対する団交申し入れの内容と経過、同種造船企業における合理化の実態と被申請人の実施する合理化策の問題点、分会への加入呼びかけ、ユニオンショップ解雇の不当性、首切り合理化に反対との方針等を内容とする記事を掲載した。

(四)  除名の経緯

(三)記載の申請人らの行動に対し、補助参加人は、次のとおりの対応をなした。まず、同年二月九日、鶴見造船支部は、緊急事態発生と受けとめて検討した結果、申請人佐藤らの行為は、組織の団結維持に関する重大な挑戦であり、本部各支部に連絡すると共に脱退手続の履行と脱退理由の開示を求め慰留をなすことを決め、申請人佐藤らに出頭を求めたが、同人らはこれに応じなかったため、かかる問題につき今後必要なときは就業時間内組合活動を承認するよう被申請人に申し入れると共に、翌一〇日の中央執行委員会では経過を報告し、制裁すべく制裁委員の選出を行った。同月一二日には、申請人佐藤らに対し、脱退は組合規約に従ったものではないので、組合員資格を保留し、脱退理由については書面による提出を求める旨の内容証明郵便を発送し、以上の経過につき分裂策動許さずと題して支部日報に発表した。そして、村山については、同日面会のうえ、脱退手続の不備を指摘すると共に慰留に努めたが、同人から脱退については配布したビラに記載したとおりで真意は伝わっているとして拒絶されたため、同月一四日には、申請人佐藤らの内容証明郵便による一方的な脱退通知は、その理由が明示されていないばかりでなく鶴見造船所に在籍のままなされたもので、これは、組織の破壊、分裂行為であるとして制裁委員会へ審理申立をなすと共に、申請人らに対し、要請に拘らず脱退理由を明示せず出頭要求にも応じない態度を批判し且つビラから窺われる脱退理由は不当であり、組合員としての権利を行使しないまま一方的に脱退の意思を表明したのは、合理化措置を免れる目的のためといわざるを得ず、かような行動は団結を破壊するもので許されない旨指摘すると共に、同月二六日までの所定の脱退手続の履行と同月一七日の制裁委員会への出席を要請する内容証明郵便を発送し、申請人佐藤については、面会のうえ脱退が許されないことを説くと共に脱退理由を明らかにするよう求め且つ慰留もなしたが、同人からは、脱退済であるから要請には応じられず、今後は全造船に連絡するよう反論された。それでも、同月一六日には、申請人佐藤らに対し、制裁委員会への出席を再度要請したが、同人らはこれを拒否し、同月一七日の制裁委員会にも欠席したため、同月二〇日には、欠席の理由を問質したうえ、改めて出席し意思を述べるよう強く要請したものの、同月二一日の制裁委員会にも欠席した。そこで、同月二二日、申請人佐藤らに対し、制裁委員会としても重大な結論を出さざるを得ない旨表明し出席を強く要請する内容証明郵便を発送したが、同月二三日の制裁委員会にも欠席したため、同委員会は、決定もやむを得ないとして、「団結こそ組合の生命であり、団結を強化せねばならない時の組織の破壊、分裂行為は断じて許されないところ、申請人らは、脱退の動機理由を明示せず配布されたビラから窺われる脱退理由は、職場討議等で表明されたことがなくいわれなきものであり、結局労働協約の適用を免れることを目的としたものと判断せざるを得ないが、これは、組合の団結と存立に関する重大な挑戦であり、制裁規定四条一項『組合の組織を破壊し、又は分裂させる目的をもって行為したとき』に該当し、村山は首謀者で、申請人佐藤は積極的に行動しているゆえ、制裁規定五条一項『本規程四条一項及び二項のいずれかに該当した者で首謀者は除名、共同謀議に参画するか又は事実行為で積極的に行動した者は除名又は権利停止』に該当し、そのうえ補助参加人の名誉、信用にかかわるビラ配布を行い要請にも拘らず脱退理由を明らかにせず制裁委員会の喚問にも応じない態度は、制裁に値するほどの重い情状であるから両名とも除名相当」との裁定を下した。

また同月二八日の申請人日和田及び同持橋の脱退通知に対しても、所属の鶴見造船支部及び浅野船渠支部は、申請人佐藤らの行為と同様であるとして制裁委員会に審理申立をなし、同時に、組合員資格を保留し同年三月二日の制裁委員会への出席を要請する内容証明郵便を発送し、申請人日和田に対しては、同月一日、脱退手続の履行の必要性を説明し慰留をなしたが、同人は、すでに行動を起こした後であり脱退の理由は申請人佐藤らと同様であり翌日の制裁委員会には出席しないと返答し、申請人持橋についても、同月一日、二日と脱退を慰留し制裁委員会への出席を要請したが、同人は脱退済であるとしてこれを拒否し、右両名とも同日の制裁委員会に出席しなかった。そのため、同日右両名に対し、同月六日の制裁委員会に出席するよう強く要請し、応じないときは、申請人佐藤ら同様重大な決意で結論を出さざるを得ない旨の内容証明郵便を発送したが、同月六日の制裁委員会にも出席しなかったので、同委員会は、決定もやむを得ないとして、「補助参加人は強固な団結をうたいあげており、組織の破壊、分裂行為は断じて許さないものであるところ、申請人日和田同持橋は脱退の動機理由等について所定の手続をもって明らかにすべきであるのに拘らず、一切これに応ぜず、結局労働協約の適用を免れることのみが脱退の目的であり、これは、組合の団結と存立にかかわる重大な挑戦であり、制裁規定四条一項に該当すると共に、事実行為として積極的に活動しており制裁規定五条一項にも該当し、そのうえ、補助参加人を誹謗中傷するビラを配布し、加えて組合諸機関の要請を無視する態度は、制裁に値するほどの重い情状であるから両名とも除名相当」との裁定を下した。

そして、この各裁定を受けて、同月一〇日開催された臨時組合大会において、制裁委員会の裁定理由のとおり除名処分が満場一致で可決された。

ところで、補助参加人は、被申請人に対し、同年二月一二日に、脱退が効力を生ずるためには所定の脱退届の提出と支部中央各執行委員会の審査承認を必要としているところ、申請人佐藤らの脱退については未承認のため、依然補助参加人の組合員であり、当然補助参加人の労働協約が適用され、適用に関する苦情処理等についても補助参加人が交渉権等を有する旨の申し入れをなし、被申請人からこれが確認を取り付けており、以後も同月一三日、一五日と申請人佐藤らにつき制裁委員会への審理申立準備中であることや分会との団交には応じないよう各申し入れをなし、同月二八日には、申請人日和田、同持橋の脱退通知に関しても、同月一二日と同様の申し入れをなし、また申請人佐藤らの制裁裁定書を提出するなどして、被申請人に対し、申請人らの行為につき補助参加人の労働協約に従った措置をとることを表明してきたが、前記のとおり、申請人らを除名処分にすることが決定されたため、同年三月一二日、除名が執行される日以降解雇の申し入れをなすことを通知し、同月二六日には、申請人らから再審理の申立がなされなかったため、同月二七日に除名処分の執行をなすため、労働協約六条に基き解雇を申し入れるとの通知をなした。これを受けた被申請人は、慎重に検討した結果、補助参加人の除名処分、除名理由、除名手続とも瑕疵がなく合理的と判断されたため、申請人らに対し本件解雇の意思表示をなした。

2  脱退の効力

(一)  補助参加人の組合規約八条但書に「1主任部員の職分にある者 2特別社員、準社員、傭員、嘱託として採用された者 3最高議決機関が組合員にすることを不適当と認めた者」、一一条に「組合員がつぎの各項に該当したときはその資格を失う。1除名されたとき 2従業員たる資格を喪失したとき 3規約八条但書に該当したとき」、一二条に「この組合の組合員が前条の定めにより組合を脱退しようとするときは別に定める脱退届を提出し支部執行委員会の承認を受け、支部執行委員を通じ中央執行委員会の承認を得なければならない」と各規定されていることは当事者間に争いがなく、本件疎明資料によると、右一二条による脱退手続は、鶴見造船支部においては、氏名、入退社年月日、退職後の連絡先、退職理由、備斗資金受取欄がある脱退届を、浅野船渠支部においては、退職理由等を記載する欄のない備斗資金払戻請求書を各所属支部に提出して各承認手続を経ること、組合規約には一二条の他には脱退手続を規定した条項がなく従前自由意思による補助参加人からの脱退の例はなかったことが一応認められ、右事実によると、補助参加人の組合規約は、自由意思による脱退を予定していないものといわざるを得ないが、その場合でも、右以外の脱退につき手続規定がある以上これが準用されるものと解するのが相当である。

ところで、労働組合は、利益団体にとどまらず他の社団に比較して労働者の自由意思による一種の同志的結合という要素が強いばかりでなく、組合員に対する統制力が強いものだけに、その反面として脱退の自由は最大限保障される必要があるというべきであるから、脱退に機関の承認を要する組合規約は無効であって、組合員は、機関の承認がなくとも任意に有効な脱退をすることができるものであり、また、脱退における形式的手続規定も、脱退の自由を侵害しない限度において有効であるにすぎないから、右手続を履行しなくとも、脱退者の任意且つ真意の意思表示と認められる方法によれば、脱退の効力には何ら影響がないというべきである。

これを本件についてみると、前記1(二)のとおり、申請人佐藤は、昭和五四年二月九日、同日和田及び同持橋は、予め口頭により脱退の意思表示をなし、さらに、各所属支部に到達した内容証明郵便によっても脱退の意思表示をなしたものであるから、右意思表示をなした日に脱退の効力が生じたものというべきである。

(二)  被申請人は、脱退は団結を弱体化させるものであるから正当理由がある場合にのみ許される旨主張する。しかしながら、その正当理由とは、結局多数の意思と脱退者の意思との相異による判定によらざるを得ないところ、かような判断は事の性質上著しく困難であり、また判断自体不相当であるともいえるのであって、そもそも労働組合は対使用者との間での経済的諸条件の向上をめざすものであるが、その目的とする内容、手段、方法は多種多様でありそのいずれかを選択するかは当該労働者の意思にゆだねられるべきものであり、少数の意思の者が多数の意思に従えないとして、労働組合から脱退し自らの信ずる行動をとることを許さない理由は何もないのであって、その結果従前の労働組合の団結が結果的に弱体化したとしても、それは自らの活動ないし方針が脱退組合員に対し説得力を持ち得なかったことにこそ帰せられるべきものであり、もともと団結の強化は、労働者の任意的且つ自主的な意思による結合を抜きにしてはあり得ない(後記のとおりユニオンショップ協定はあくまでも間接的な手段にすぎない。なお、ユニオンショップ協定は、脱退の場合にも本来適用があるから、ユニオンショップ協定の趣旨をもとに、脱退に厳格性を要求する被申請人らの主張は当を得ない。)のであり、基本的には、活動ないし方針を通じて、正当な競争の中でその優位性を示して労働者に共感を呼びおこし自発的に結集させるという方法によるべきであり、脱退に制約を付することによるべきではないから、いずれにしても被申請人らの主張は採用できない。

(三)  被申請人らは、申請人らの脱退は、その理由、時期、方法、態様等から団結権を侵害した違法のものである旨主張する。なるほど前記1(一)の事実によれば、申請人らが脱退通知をなした時期は、未曽有の造船不況下における厳しい合理化策に対し強い団結のもとに交渉する必要があったことは是認できるものの、他方、労働者にとって基本である雇用の確保との点からみるときは、かような時期であるからこそ、労働者の信ずる方法によることが許されなければならないともいえるのであり、前記1(一)(二)の事実によれば、申請人らは、合理化策の実施に対し、自らの状況と信念に基づき、補助参加人の方針に同調し得なくなったとして、その方針に共鳴していた全造船に加入して分会を結成ないしこれに加入し、直ちに補助参加人を脱退し、その後は、雇用確保と労災に重点をおいて活動したものであり、補助参加人の方針と比較してどちらが当時の状況において妥当であったかはともかくとして、申請人らの主張が全く不当であるとか使用者の意を受けたものであるとはとうてい認め難いうえ、全造船は、法人格を有する産業別労働組合であり、分会も、構成員、規約、機関、財政及び被申請人に対する団交申し入れ、機関紙の発刊等の活動実態に照すと独自の活動をなしうる社団的組織体をなしており自主的な労働組合として保護するに値する実態を有しているものであるから、かような労働組合への加入ないし結成は団結の自由からいって保障されているところであり、なお、脱退に際し配布したビラにおける補助参加人の方針の批判についてはその表現に問題はあるが、全く虚偽であるというわけでもなく全造船への加入の動機決意表明中のものであることを考慮すれば必ずしも重大視することはできず、脱退理由の明示要請の拒否も前記2(一)のとおり脱退の意思表示は生じているものであるから申請人らを非難すべきすじあいではなく、さらに分会への加入呼びかけも労働組合として正当な組合活動であるといえ、以上を総合すると、申請人らの脱退が団結権を侵害した違法なものであるとか補助参加人の組織を破壊分裂させるものとはとうてい認め難く、他に右事実を認めるに足る的確な疎明はないから、被申請人らの主張は採用できない。

(四)  以上によれば、申請人らの脱退は、除名処分の前に効力が生じていたというべきであるから、除名処分は無効のものというべきである。

被申請人らは、除名に瑕疵があっても、その除名を正当であると信じ、かつそのように信ずるにつき合理的理由がある場合には、解雇は有効であると主張するが、独自の見解であってとうてい採用の限りではない。

3  ユニオンショップ協定の効力

補助参加人組合規約五条に「所を勤務地とする社員は、つぎの各号の一に該当する者を除き組合員とする。一主任部員およびこれに相当する職にある者 二特定の業務に従事する一部の部員 三その他会社と組合が除外を適当と認めた者」、六条には「会社は組合から除名された者を解雇する。ただし、会社が解雇につき重大な異議あるときは組合と協議する」と規定されていることは、当事者間に争いがなく、これによれば、脱退の場合について規定を欠いているというものの、特に除外規定が設けられていない限り、脱退の場合にも使用者にその脱退者を解雇する義務があると解せられる。

ところで、ユニオンショップ協定は、労働者が労働組合の組合員たる資格を取得せず又はこれを失った場合に、使用者をして当該労働者との雇用契約を終了させることにより間接的に労働組合の組織の拡大強化をはかろうとする制度であり、このような正当な機能を果たすものと認められるかぎりにおいてのみその効力を承認することができるものであるところ、憲法二八条は、団結権の保護に値する自主性を有する労働組合に対しては、組合員数等を問わず、平等に団結権を保障し一つの組合の団結権に他の組合のそれに優越する地位を認めることを許していないものであるから、ユニオンショップ協定を締結している労働組合の組合員が、右組合から脱退しあるいは除名された後、直ちに他の労働組合に加入し、又は新しい組合を結成した場合においては、ユニオンショップ協定の効力は、右脱退組合員あるいは被除名組合員にはその効力が及ばないものと解するのが相当であり、またこの理は、右の二組合が企業内組合であると産業別労働組合であるともいずれも憲法二八条にいう団結権にとって同価値であるから異るところもないことが明らかである。

しかして、これを本件についてみるに、申請人らは、法人格を有する産業別労働組合である全造船に加入したうえ、それ自体保護に値する自主的な労働組合と認められる分会を結成しあるいはこれに加入し、直ちに補助参加人を脱退したものであるから、補助参加人の締結しているユニオンショップ協定の効力は、いずれにしても申請人らには及ばないというべきである。

4  本件解雇の効力

以上1ないし3によれば、本件解雇はその理由を欠いたものであり、他に解雇を理由づける何らの主張疎明もないから、無効のものというべきである。

三  賃金及び保全の必要性

申請の理由3の事実は当事者間に争いがなく、本件疎明資料によれば申請の理由4の事実を一応認めることができる。

四  以上によれば申請人らの本件仮処分申請はすべて理由があるから保証を立てさせないでこれを認容することとし、申請費用の負担につき、民訴法八九条、九四条を各適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 飯渕進)

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